とある夫婦の妊娠期間<よくある話>

健康

夫婦で迎えた妊娠期間——すれ違いと歩み寄りの10ヶ月


1. 妻が妊娠した日、僕は「父」になったと思っていた

「ねえ、ちょっと座ってくれる?」

帰宅して着替えもせずにビールを開けようとしていた僕に、妻が真剣な顔でそう言った。
普段なら「どうした?」と笑って流せる空気も、この時ばかりは胸がざわついた。

「妊娠、してた」

その瞬間、嬉しい気持ちと戸惑いが同時に押し寄せた。
でも、僕はとにかく笑顔で「やったじゃん!」とハイタッチを求めた。

それに対して妻は…泣いていた。
嬉し涙だと思っていた。でも違った。後からわかったのは、その涙の裏には「不安」や「恐怖」もあったということだ。


2. 「つわりってこんなに辛いんだよ」——想像以上のリアル

妊娠が発覚して1週間もしないうちに、妻の体調が激変した。

朝から晩まで気持ち悪そうにしている。
食べられるものは限られ、においにも敏感になり、料理どころか台所にも近づけない。

正直、僕はその頃まだ「妊娠=幸せな時期」だと思っていた。
ソファで苦しむ妻に「何か食べられそうなものある?」と聞いたことも、今では反省している。
彼女が一番欲しかったのは「何をしてあげればいい?」じゃなくて、「そばにいるからね、大丈夫だよ」だったんだ。


3. 夫婦喧嘩が増えたのは、心のすれ違い

ある日、些細なことで喧嘩になった。

僕が仕事帰りに寄り道をして帰宅が遅れたとき、妻は泣きながら言った。

「私ね、ずっと今日も吐いてたの。水も飲めなかった。1日中一人で…あなたが帰ってきてホッとしたかったのに、どうして連絡もくれないの?」

そのとき、僕は「たかが30分くらいで…」と思っていた。
でも、彼女にとってその30分は、**「見捨てられたような時間」**だったのだ。

僕は、体の変化だけでなく、心の変化にもっと寄り添うべきだった
感情の波が激しいのはホルモンのせい。とわかっていても、受け止める覚悟が僕には足りなかった。


4. 妻の「がんばり」に気づいたのは、ようやく中期に入ってから

妊娠5ヶ月。つわりが少し落ち着いて、妻に笑顔が戻ってきた。

でもそのとき僕が気づいたのは、「笑ってるけど、頑張って笑ってるんだ」ということ。

「本当はまだしんどい。でも、迷惑かけたくないの」

そう言って、少しずつ家事を再開しようとしていた。

僕はその時ようやく、自分がどれだけ無神経だったかを実感した。

「いいよ、無理しなくていいよ」「今日は僕が作るよ」
そう言いながら、やっと「妊娠は2人のこと」だと実感し始めた


5. 一緒に母親学級へ行って、はじめて“父親スイッチ”が入った

市の母親学級に、妻が「一緒に来てくれる?」と誘ってくれた。

正直、面倒だと思った。でも行ってみたら、自分の認識が変わった。

妊娠や出産がどれだけ体に負担をかけるのか。
出産には「夫のサポート」がどれほど重要なのか。

胎児の模型をお腹に巻いて、腰をさすってもらうワーク。
「こんなに重いのか…」と驚きながら、僕は初めて、妻の10ヶ月間を想像した

この日を境に、僕の中でも「サポートしよう」から「一緒に乗り越えよう」へと意識が変わった。


6. 妊娠後期、いよいよ「夫婦のチーム力」が問われる日々

妊娠7ヶ月を過ぎると、妻の動きは明らかに鈍くなった。

靴を履くのも一苦労、寝るのも苦しそう。
夜中に何度もトイレで起き、そのたびにベッドに戻るのを手伝った。

僕は、家事全般を自分がメインでこなすようになった。
それが「大変」ではなく、「自然」だと思えたのは、彼女のこれまでの頑張りを見てきたからだ。

ある夜、布団の中で妻がぽつりと言った。

「最近ね、あなたと一緒に妊娠してるみたいな気持ちになるの」

僕は涙が出そうになった。


7. 出産直前の夜。静かに手を握ったあの時間

予定日が近づくと、緊張が高まった。
妻は眠れなくなり、毎晩「いつくるかわからない陣痛」に怯えていた。

ある夜、彼女が急に僕の手を握ってきた。

「もし何かあったらって思うと、怖くなるときある」

僕は言葉では返せず、ただその手を強く握り返した。
「大丈夫、一緒にいるよ」
その想いだけを込めた。


8. 娘が生まれた日、僕たちは「親」になった

陣痛が始まり、長い時間が過ぎた後、分娩室から産声が聞こえた。

「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」

妻は泣きながら「ありがとう…」と僕の手を握った。
僕も、ただただ涙が止まらなかった。

命を生むというのは、こんなにも壮絶で、神聖で、感動的なんだと実感した。


9. 今、振り返って思うこと

妊娠期間は、甘いだけの10ヶ月ではなかった。
すれ違い、戸惑い、悩み、傷つけ合う日もあった。

でもその一つひとつを経て、僕たちは「夫婦」から「家族」へと変わっていった。

あの時、手を抜かなくてよかった。
あの時、「どうしたの?」と声をかけてよかった。

夫婦って、支え合ってこそ「絆」になるんだと、身をもって知った。


10. これから妊娠を迎える夫婦へ伝えたいこと

妊娠中、妻に何ができるかわからない夫は多いと思う。
僕もそうだった。でも、完璧じゃなくていい。

「一緒に悩む」「隣にいる」——それだけで、妻は救われる。

父親になるって、何かができることじゃない。
「できるようになろうと努力すること」こそが、父になる一歩なんだと思う。

どうか、あなたも。
奥さんと一緒に、同じ景色を見ながら、親になっていってください。

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